ビジネスをするうえで、マーケティングとセールスはいずれも収益の向上を目指すものです。
さらに両者は密接に関係しているため、それぞれの違いに注意しながら取り組むことも大事です。
大企業であればマーケティング部門とセールス部門に分かれていることがあり、お互いが密に連携する必要があります。
一方で中小企業では同一人物がマーケティングとセールスを担当することがほとんどでしょう。
しかし、マーケティングとセールスは意味が異なるため、その目的やアプローチが異なります。
さらに、会社が成長するにつれてマーケティングとセールスの役割は専門的になり、両者について理解を深めることが必要です。
この記事では、マーケティングとセールスの違いや統一する大切さなどを解説します。
目次
マーケティングとセールスについて
はじめに、マーケティングとセールスについて定義をご説明します。
マーケティングの定義
日本マーケティング協会は1990年に、マーケティングを以下のように定義しています。
マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための創造的活動である。
(引用:日本マーケティング協会)
また、アメリカのマーケティング協会(AMA)では、以下のように定義しています。
マーケティングとは、顧客、クライアント、パートナー、および社会全体にとって価値のある製品を制作、伝達、提供、および交換するための活動、一連の機関、およびプロセスです。
(引用:アメリカ マーケティング協会)
以上を加味すると、マーケティングは次のように考えることが可能です。
・顧客への一方的な押し付けではない
・顧客の潜在的、顕在的なニーズを理解するプロセスが必要
・顧客が求めるものを創造、製作、伝達、交換する総合的な活動
さらに端的にいうと「顧客に商品やサービスを選んでもらう(購入してもらう)までの全ての活動」がマーケティングとなるでしょう。
そのために、「誰に」「どのような価値を」「どのようにして提供」するかを考える必要があります。
そして、主なマーケティング活動には「市場調査」「広告宣伝活動」「効果測定」があります。
・市場調査
売れる商品の企画のためにニーズを探ることです。モニターへのアンケートや政府など公的機関が公開している統計データなどをもとに定量的なデータを把握していきます。
・広告宣伝活動
商品の製作後に、広告を出して集客を行うことです。これまでは新聞やテレビなどに広告を出すことが主流でしたが、最近では検索エンジンからの検索流入やソーシャルメディアからアクセスを集める手法が一般的です。
・効果測定
広告宣伝活動がどれだけ売上げに効果をもたらしたのかを検証することです。費用対効果を算出することが主たる目的ですが、それが難しい場合は認知度の向上や見込み顧客の獲得などの数値を参考にします。
企業は、以上のような過程を繰り返して製品の企画から販売までを継続します。
セールスの定義
セールスとは、「モノを売る」ことです。
もう少し詳しくいうと、買い手(顧客)が商品やサービスを金銭と引き換えに受け取る取引です。
また、営業社員をセールスマンということがありますが、営業社員のセールスは自社商品やサービスの購入を促し、最終的に売買契約の締結が目的となります。
セールスの目的は文字通り「売る」ことであり、顧客を説得する必要があります。
セールスと聞くと一般的にいいイメージを持たれませんが、マーケティングにおいて外すことのできない過程となります。
マーケティングとセールスの違いと関係性
前述したように、マーケティングにおいてセールスは外すことができない過程です。
その理由をそれぞれの違いに触れながらご説明します。
それぞれの違い
マーケティングとセールスには、定義のほかにアプローチ、焦点、手順、範囲、期間、戦略、性質が異なります。
マーケティング | セールス | |
アプローチ | 顧客管理、商品・サービスなどの販売活動の全般を行う。将来的なニーズを決めて長期的に満たすための戦略となる。 | 自社が提供している商品・サービスと顧客の要求の一致。つまり、商品の購入や売買契約書の締結。 |
焦点(目指すべきもの) | 自社が提供する商品・サービスを通じて顧客のニーズを満たすこと。そのための宣伝、配布、価格設定などの全体像。 | 販売個数(売上)目標の達成。 |
手順 | 市場分析、価格戦略、予算の決定の順に行う。 | 通常は1対1で行う。 |
範囲 | 市場調査、広告、販売、広報、サービス提供と顧客の満足度。 | 顧客のニーズを満たす商品・サービスを製造して、購入してもらえるように説得する。 |
期間 | 長期 | 短期 |
戦略 | プル戦略(顧客の需要やニーズを引き出す) | プッシュ戦略(顧客に積極的な売り込みをする) |
性質 | ブランドやアイデンティティの構築を目指すため、顧客のニーズを容易に満たせる。(顧客との長期的な関係の構築) | 顧客の希望にそった個別の方法でニーズを満たすため、必要なときに必要性を満たす。(マーケティングの最終結果) |
以上のように、マーケティングの一部(最終過程)にセールスが存在しており、基本的にはセールスの前にマーケティングが始まっていることがほとんどです。
なお、マーケティングの流れについては、以下をご覧ください。
- 市場調査
- 営業戦略、マーケティング戦略、商品開発
- 広告宣伝
- 販売促進、販売(セールス)
- 顧客サポート、効果測定
以上の過程が全てマーケティングであり、長期的な戦略であることがわかるでしょう。
マーケティングとセールスは連携すべき
マーケティングとセールスは密接な関係があり、単独で行うと顧客に価値の提供ができません。
しっかりと連携することが、企業に利益をもたらします。
しかし、マーケティングとセールスの連携には難しさがあります。
その理由は、マーケティング担当、セールス担当はそれぞれで言い分が異なることが多いからです。
セールス(営業)担当者は、マーケティング担当者に対して「現場(顧客)の声を知らない」「さほど売上げに貢献していない」「生産性が低い」などの想いを持つことがあります。
一方でマーケティング担当者は、セールス担当者に対して「クロージングするだけの仕事」「短期的な思考しかできない」「マーケティング情報を活用し切れていない」などの主張を行います。
このような言い分の食い違いが、それぞれの連携を難しくさせています。
また、マーケティングとセールスに必要なスキルや能力は異なります。
セールスは顧客とのやり取りが大きな仕事であり、コミュニケーション能力や人間関係の構築能力が必要です。
マーケティングには、企画に必要なデータ分析能力や戦略策定の能力といった論理的な思考力が求められます。
業務内容だけではなく、担当者に求められる能力が異なるため、両者の連携は難しくなっています。
また、マーケティングとセールスが連携できない具体例は以下になります。
・マーケティングとセールスを連携させる概念がない
・連携の定義はあるが、それぞれ領域があり連携できない
・連携しているが、形式的な場合
以上のいずれかに該当しているならば、マーケティングとセールスをしっかりと連携させる取り組みが必要です。
マーケティングとセールスは統一性が大切
マーケティングとセールスを連携させるには、統一性が大切です。
以下で、何を統一していくのかを3つの項目からご説明します。
KPI設定の統一
マーケティングとセールスの最終目標が同じであっても、セールス部門とマーケティング部門が異なるKPI(評価指数)を設定していると、うまく連携できません。
たとえば、セールス部門は受注数や受注額で評価されることに対して、マーケティング部門がリード数やその質によって評価が計測されていると、部門間の摩擦や衝突につながります。
ともに一蓮托生のKPI設定を行うことで、それぞれが担当する役割と責任が明確になります。
また、具体的に数値化された共通の目標を持つと、部門内だけではなく部門外の協力体制が生まれて連携が深まるでしょう。
ターゲットの統一
マーケティングとセールスの連携を高めるには、ターゲットの統一も重要です。
両者の連携がうまくいかない最もわかりやすい例が、それぞれで異なるターゲットを設定している場合です。
セールス担当は当然ながら訪問する顧客をターゲットにすると思いますが、マーケティング担当がイベントなどのプロモーション施策でアプローチする層をターゲットにしていたらどうなるでしょうか。
その場合は、セールス担当とマーケティング担当が全く別の仕事をしていることと同じです。
もはや、連携をとるというレベルではありません。
アプローチするターゲットを統一するからこそ、団結力が高まり連携もできるわけです。
成約プロセスの統一
成約プロセスの統一も、マーケティングとセールスの連携には必要です。
成約に結びつけるためには、お互いのアクションを取り入れることを前提にしてプロセスを考えることが大事になります。
また、SLA(Service Level Agreement)と呼ばれるサービスレベル合意書(サービスレベル品質保証)を作成して、明文化したプロセスでそれぞれの部門担当の役割を決めることも重要です。
SLAの作成の際は、ターゲットのペルソナを明確に決めて両者で認識の違いがないように、リードの定義も明らかにしましょう。
マーケティング、インサードセールス、アウトサイドセールスといった運用フロー、顧客接点のタイミングと回数、獲得するリードの量と質、リードのスコアリング要件、アプローチ期間なども細かく決めて可視化することがポイントです。
マーケティングとセールスの連携力強化をするには?
マーケティングとセールスをさらに強化するには、インサードセールス化と効率化ツールの積極的な活用が効果的です。
以下でそれぞれの内容をご説明します。
インサイドセールス化を進める
インサイドセールスとは、アメリカ発祥の内勤型営業のことです。
アメリカは国土面積が広いため、フィールドセールス(外勤型営業)ではなく電話営業が盛んでした。
そして、その営業スタイルをインサイドセールス、内勤型営業と呼ぶようになっています。
現在のインサイドセールスは、電話だけではなくメールやWEB面談システムなどを活用して行われています。
なお、インサードセールスには以下のような特徴があります。
・顧客と直接対面しない
インサードセールスは、オフィス内から営業活動を行います。オンラインの商談システムや電話を使うため独特の難しさはあるものの、非訪問により移動時間や交通費の削減、災害などが起きても営業活動を中断せずに済むなどのメリットがあります。
・マーケティングとセールスの性質を持つ
インサイドセールスは、単なるセールスではなく顧客との関係構築、すなわち顧客育成も活動の一部です。また、インサイドセールで検討度が向上した顧客をフィールドセールスに渡して売上げにつなげてもらうことも行います。
・営業効率や生産性が高い
前述のとおり、インサイドセールスは顧客のもとに訪問しないため移動時間が不要です。オンライン商談や電話商談であれば、お互いの集中力などもあり長時間の商談はできないでしょう。コンパクトな商談になると商談数を増やすことも可能であり、営業効率が格段に向上します。今まで削減できなかった時間は、顧客のニーズ調査など重要な業務に充てることができます。
・インサイドセールに向いている商品と向いていない商品がある
インサイドセールスには注意点があり、向いている商品とそうでない商品があります。情報提供や説明が必要なときはインサイドセールスが効果的です。一方で顧客ごとにメリットや説明内容が異なる場合、インサイドセールスは向きません。ニーズ喚起の商品も難しいでしょう。また、相手の表情や仕草を感じながら商談したいときもインサイドセールスでの対応は難しいです。
以上のように、インサイドセールスにはメリットとデメリットがありますので、覚えておきましょう。
効率化ツールを積極的に利用する
マーケティングとセールスの連携には、効率化ツールの活用が有効です。
KPI設定、ターゲット、成約プロセスの統一にツールを使うことで、営業機会の損失防止や顧客育成などの効果があります。
たとえば、マーケティング担当が集めたリードをセールス担当に渡しても、セールス担当が放置すると機会損失が発生します。
その場合、マーケティング担当が集めたリードは収益化につながらず、担当部門としての価値も下がってしまいます。
営業部門は手元にあった収益化のチャンスを逃すことで、将来的な収益を落としてしまいます。
そのような両者の溝を埋めるには、MA(マーケティングオートメーション)とCRM(顧客管理)の2つのツールを使って連携することが効果的です。
そのほかにも、オンライン商談やオンライン会議システムの導入、SFA(営業支援)、DCMA(セールスデジタルコンテンツ管理ツール)など、さまざまなツールがあります。
自社のマーケティングやセールスに必要なツールを検討して、積極的に導入してみましょう。
まとめ
マーケティングとセールスは、定義をはじめとしてさまざまな面で異なります。
しかし、ビジネスにおいては両者を連携させることが大事です。
連携させるには難しい側面もありますが、KPIの設定やターゲット、成約プロセスの統一を行なって連携させてください。
連携を強化するには、インサイドセールス化や効率化ツールの活用が効果的です。
この記事を参考にして、ぜひマーケティングとセールスを連携させてみましょう。